賢者が言うには
恋を焦るのは愚か者
でも僕は
君と恋に落ちる自分を
どうすることもできないのさ
映画「ブルーハワイ」の挿入歌として使用されたエルヴィス・プレスリーの「好きにならずにいられない」(Can’t Help Falling in Love)は、今でも人気のラブ・バラードだ。コリー・ハート、UB40がカバーしてヒットさせただけでなく、ブルース・スプリングスティーンなどもステージで披露している。
だがこの曲、プレスリーの一言がなければ、陽の目を見ることがなかったかも知れないのである。
ソングライター・チームのひとりだったのが、ジョージ・デヴィッド・ワイス。ルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」の共作者としても知られる彼がこの曲を持ち込むと、レコード会社とエルヴィスのスタッフは難色を示した。
それはもしかしたら、この曲がモチーフとしたのが、18世紀のフランスで生まれた「愛の喜びは(「プレジール・ダムール)」だったからなのかも知れない。
ジャン・ポール・マルティーニが作曲し、ジャン・ピエール・クラリスが作詞した「愛の喜びは」は、失恋の歌なのである。
この小川が遠い海へと
野を越え 流れ続けるように
私の愛も
溢れ続くでしょう、と
この岸辺で
あなたは言ったのに
だが、ワイスが作り変えたバージョンでは、失恋の歌は次のように作り変えられている。
川のように
確かに海へと流れ込む
ダーリン、僕らの愛も
似た定め
「是非この曲を映画で使いたい」
そんなエルヴィスの一言で、「好きにならずにいられない」は永遠のラヴソングとなったのである。
だが、残念ながら、この歌は映画「ブルー・ハワイ」の主題歌にはならなかった。主題歌となったのは、ピング・クロスビーとシャーリー・ロスが主演した1937年の映画「ワイキキの結婚」のために書かれた「ブルー・ハワイ」だった。
「好きにならずにいられない」は、映画の中で祖母の誕生日を祝うシーンで使われることになった。エルヴィス演じる主人公が祖母に手渡したプレゼントのオルゴール。祖母がプレゼントを開くと、あの聴きなれたメロディが流れ出す。そしてそのメロディに合わせてエルヴィスが歌う、というシーンである。
暑い夏。
久しぶりにエルヴィスのDVDを眺めながら、ビールを飲むのも悪くない。
※このコラムは2016年8月11日に公開されたものです

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