1961年3月のハワイにおけるチャリティーコンサートを最後に、エルヴィスは生の姿を人々の前に見せなくなった。エルヴィスの動く姿を見るためには、年に3本ほど公開される映画を観るしかなかった。
そのうちに発売されるレコードも映画のサントラ盤が中心になり、映画がマンネリ化していくにつれて、当然ながらヒット曲も生まれなくなっていく。
そんな状況の中でエポックメイキングだったのが、1965年8月27日に世界的なスターになったビートルズと会見したことだろう。エルヴィスが大好きでロックンロールに夢中になったイギリスの少年たちが、次の時代のスターになってアメリカを席巻し、キング・オブ・ロックンロールを表敬訪問したのである。
エルヴィスという偉大なる現役のシンガーと、新しい才能を発揮して勢いづいていたビートルズとの、新旧の鮮やかな対比はわかりやすいニュースとなった。
その時にジョン・レノンは憧れの人に向かって、率直にこんな質問をして表現者としてのあり方に、はっきり疑問を投げかけている。それが眠れる獅子を怒らせると同時に、初めて闘志に火をつける結果をもたらしたのかもしれない。
「どうしてあなたは古い要素を捨ててきたのですか」
「ロックンロールは?」
「最近は映画ばかり、やわなバラードばかりですね」
「ぼくはサンのレコードが好きだった」
それから3年後の夏、エルヴィスはNBCテレビの特別番組「ELVIS(通称カムバック・スペシャル)」のために、スタジオでのライブを敢行する。
サン・レコード時代のカントリーやR&B、初期のロックンロールを中心にした楽曲で始まった内容は、まさにジョンの質問に答えるかのような選曲であり、しかもこの日のための新曲まで含まれる意欲的なものだった。
1968年12月3日にNBCテレビからオンエアされた「ELVIS」は、大方の想像を超えて驚異的ともいえる視聴率を記録した。映画用に作られた凡庸な曲に我慢していたファンたちにとって、積年の鬱憤を晴らすかのような充実した内容の音楽番組からは、生身のエルヴィスの魅力が十二分に伝わってきたのだった。
そして翌年1月、60年代後半にふさわしいメッセージ・ソングの「サスピシャスマインド」を含む、全36曲のレコーディングを行ったことで、エルヴィスは音楽活動の第一線に復帰したのである。さらにはそれから8年間、最後の炎を燃やすかのように、精力的にコンサートを行っていくことになる。
そんな奇跡的なカムバックから今年で50年(2018年現在)という節目を迎えたのを機に、これまでに紹介してきたエルヴィスにまつわる様々な物語を、今あらためて振り返っていきたい。