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ロッド・スチュワートとロン・ウッド〜ロンドンのパブで語り合った一夜

2019.06.01

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1964年、当時、ロッド・スチュワートはザ・フーチー・クーチー・メン(イギリスロック創成期を築いた歌手ロング・ジョン・ボルドリーが率いたバンド)で歌っていた。
ある日、マーキー・クラブのステージに立っていたロッドに、若いマネージメントコンビ、ジョン・ローランズとジェフ・ライトが「僕たちと契約をして欲しい」と持ちかける。
最初は半信半疑だったロッドも彼らの熱心さに押されて、19歳にしてキャリア初のマネージメント契約を結ぶ。

「彼らは早速デッカレコードに売り込んで、俺のシングル曲をリリースさせる約束をとりつけて来たんだ。当時のデッカと言えばローリング・ストーンズが所属していて、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。スタートの場所としては悪くないレーベルだって思えたね。」


1964年11月16日、ロッドのソロキャリア初のシングル「Good Morning Little Schoolgirl」がリリースされる。


この曲を売り出すために、マネージャーのジョン・ローランズとジェフ・ライトは、当時イギリスで人気だったテレビ番組『レディ・ステディ・ゴー』への出演を決めてきた。

「それは金曜日の夜に放送していた最先端の音楽番組だったよ。かなり大きなチャンスになるかもしれなかった。」


収録日、ロッドはいつになく緊張をしていたという。
スタジオに向かう途中、パブに立ち寄ってスコッチのオレンジジュース割りを流し込んで気分を高め生放送の出演に挑んだ。

「その日の衣装は、ビートニク的な黒の丸首セーターに流行りのローウエストパンツ。いよいよ本番がスタートした瞬間、俺は片方の足をもう一方の足にひっかけてしまい、全国民が見ている前で“文字通り”すってんころりんとやっちまったんだ。転んだ拍子に顔を強く打ってアザを作る始末さ(笑)」


収録を終えたロッドは、ヤケクソな気分でソーホーにあったパブに向かった。
看板に『イントレピッド・フォックス』と書かれたその店は、当時ロンドンのミュージシャンたちの溜まり場として有名な場所だった。

「俺は数杯飲みながら“今さっきテレビに出ていた人”という感覚に浸っていた。その場にいた人間は全員俺のことを知っているっていう不思議な感覚だった。」


そんな彼に一人の男が近づいてきて声をかけた。

「よう!顔役(フェイス)!」


当時ロンドンでは、流行を追っていたり“やり手”だったりする人を顔役と呼んでいたという。
その男の名はロン・ウッド。
彼はその夜のことを鮮明に憶えていた。

「その日初めて話しかけたロッドは、チェック柄のジャケットを着て、髪の毛を立てて、俺とそっくりな格好をしていた。目の周りに痛々しい青アザがあった。俺たちは似た者同士だってすぐにわかった。俺はロッドのシングル(Good Morning Little Schoolgirl)は聴いていたよ。彼のやっていることに感心していた。」


二人はすぐに打ち解け、ポートワインとブランデーを飲みながら数時間話したという。
まるでずっと以前からお互いを知っているかのように、バンドについて話し、影響を受けた音楽やミュージシャンについて語り合った。
サム・クック、オーティス・レディング、ロバート・ジョンソン、ビッグ・ビル・ブルーンジーバディ・ガイなどなど…
ロッドはその夜のことをこんな風に語っている。

「ついさっき番組で派手に転んだ話をして大笑いし、好きな音楽について語り明かしたよ。俺たちには当時出てきたばかりのお気に入りのグループがあって、お互いにピタリと意見が一致したんだ。スモール・フェイセスさ!嬉しかったね。その夜からロニーとの固い友情が始まったんだ。」




──1969年、スモール・フェイセスのヴォーカリストだったスティーヴ・マリオットは、ピーター・フランプトンと共にハンブル・パイを結成するためにバンドを脱退する。
当時、バンドの存続に一番こだわったキーボーディストのイアン・マクレガンは、新しいスタイルとイメージを取り入れて「新たなバンドとして活動を続けていきたい」と、他のメンバー(ロニー・レーン、ケニー・ジョーンズ)に提案した。
そして3人で話し合った結果、名前を“フェイセズ”にして新たなステップを誓ったという。
彼らは、たとえ名前くらい変えたところで、3人での再スタートが容易ではないこともわかっていた。
ちょうどその頃、ジェフ・ベックグループと決別したロン・ウッドは3人のフェイセズと友好関係を結び、練習場でセッションをしながら次第にバンドに参加するようになっていた。
ロンと同じタイミングでジェフ・ベックグループを離れたロッド・スチュワートも、ロンとも強い絆で結ばれていたので、フェイセズの練習場に顔を見せるようになった。

ヴォーカル:ロッド・スチュワート
ギター:ロン・ウッド
ベース:ロニー・レーン(1973年以降、山内テツ)
ドラム:ケニー・ジョーンズ
キーボード:イアン・マクレガン


後に英国ロック史に残るスーパーバンドとなるフェイセズは、こうして結成されたのである。


<引用元・参考文献『ロッド・スチュワート自伝』ロッド・スチュワート (著)中川泉 (翻訳)/ サンクチュアリ出版>

<引用元・参考文献『俺と仲間〜ロン・ウッド自伝〜』ロニー・ウッド(著)、五十嵐正(翻訳)シンコーミュージック>

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