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ミュージックソムリエ

『今夜、触れてほしいジェネシスの世界』

2016.01.25

 “シンシアちゃんはうっすらと微笑みながらマレットを振りかぶり、ヘンリーくんの頭を打ち抜いてしまいました”


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写真はジェネシスのサード・アルバム『Nursery Cryme』(邦題:怪奇骨董音楽箱)のアルバム・ジャケット。
太陽に照らされた黄金色の芝生が美しい。中央ではメイドさんと一緒にクロッケーをして遊んでいるシンシアちゃんが、ヘンリーくんに狙いを定めてマレットを振りかぶります。

これは『Nursery Cryme』の1曲目「Musical box」の世界を絵で表現したもの。ほのぼのとしたイギリス貴族の日常に潜む醜い裏側、というテーマで描かれたものですが、そのような解釈を抜きにしても人を引き付ける強烈な魅力がある絵です。

日常の喜怒哀楽、暮らしに寄り添う音楽がある一方で、日常とは異なる別世界へと旅立たせてくれる音楽もあり。ジェネシスの音楽は、後者の代表格と言っていいでしょう。

ジェネシスはイギリスのバンド。1967年、貴族のお坊ちゃん達の学生バンドとして結成されました。
1960年代後半から1970年に掛けての英ロック・シーンは、若いバンドが新しい音楽を生み出そうとしていた時期でした。

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そんな時、彼らが個性を確立するために目を付けたのが、イギリス人に根付いた童謡マザー・グース。
怖い話を伝承していくマーダー・ソング(例:「リジー・ボーデン」)、世の中の不条理を伝える歌(例:「ロンドン橋落ちた」)など、その物語の多くは残酷で恐ろしいもの。
しかし一方で謎めいた雰囲気を持っており、魅力的な童謡なのです。

1970年、ジェネシスはマザー・グースに連なる「怖くて不思議な童謡」を生み出そうという試みを実行。マザー・グースの別名ナーサリー・ライムをもじった『Nursery Cryme』というアルバムを発表したのでした。

本文の最初の一行は、「Musical box」の歌詞に続いて載せられている「物語」より一節を抜粋したもの。それは以下のような物語です。

ある日、クロッケーで遊んでいたシンシアちゃんは一緒に遊んでいたヘンリーくんの頭を打ち抜いてしまう。後日、シンシアちゃんはヘンリーくんの寝室でオルゴールを見つける。それを開くと「Old King Cole」のメロディーが流れるとともに、ヘンリーくんの亡霊が現れて静かに語りだす・・・・・・



オルゴールの音色をイメージした美しいギター・ソロ(テープ速度半分での録音)からスタート。
そして、ヘンリーくんを憑依させた(イタコ状態の)ピーター・ガブリエルによる怪演が繰り広げられます。
バックでは清々しく優しい音色のキーボードと、高々と飛翔するギター。静と動が移り変わり、ダイナミックに美しいメロディーを紡いでいきます。
全身全霊、真剣に打ち込んだことでしか、生まれない緊迫感が漂う中で描かれる、ヴィクトリア朝時代の貴族文化を踏まえた世界観も見事です。

深夜。小さい明かりだけでアルバム・ジャケットを照らし、布団に包まって、この曲を聴いてみましょう。
聴こえてくるのはスピーカーから流れてくる、恐ろしくも不思議な物語の世界。あなたはそこに立っていることでしょう。
眠れなくなったあなたには、栄枯盛衰を歌った穏やかなバラード「Harequin」をどうぞ。それではごきげんよう。

(ミュージックソムリエ 旧一呉太良)



Genesis『Nursery Cryme』
Atlantic

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