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ザ・リバー~絶望の淵に立つ男

2014.01.23

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「この曲は僕にとってブレイクスルーとなった。初めてのストーリー・ソングだ。それが『Nebraska』につながっていった。」

ブルースが1980年にリリースしたた2枚組の大作、『The River』。
そのタイトルナンバーである「The River」について、ブルースはそう語っている。

主人公は、不況下で建設会社の仕事もほとんど失った男。
彼はひとり、兄の車で川へとでかける。
そこは結婚する前、妻とよく訪れた場所だ。

夢に包まれていた昨日。そして職を失うと同時に、絶望の淵に立つ男。
たどり着くと、川は干上がっている。そして男は思う。

叶わなければ、夢は嘘なのか
それよりひどいことなのか

ブルースは、建設会社の職を失ったばかりの義理の弟と話をした後に、この曲を書き上げている。

マリーのモデルは、10代で結婚したブルースの妹だ。
「曲を聴いた瞬間、私と彼のことだってわかったわ」と彼女は話している。

俺は谷間の出身だ
そこでは誰もが小さい頃
親父の人生をなぞるように育てられる
俺とマリーは高校で出会った
彼女はまだ17歳
ふたりでよく谷間を抜け出し、緑の草原へと車を走らせた

ふたりで川へと向い
ふたりで川へ飛び込んだ
ああ、ふたりで川へと車を走らせたのさ

そしてマリーが妊娠した
ああ、彼女が書いてよこしたのはそれだけだった
19歳の誕生日
俺は労働組合の組合員証と婚礼用のコートを手に入れた
ふたりで裁判所へ行くと
判事がすべてを片付けてくれた
結婚式の笑顔もなかったし
教会の通路を歩くこともなかった
花束の祝福もなかったし
ウェディングドレスを着ることもなかった

その夜ふたりで川へと向かい
ふたりで川へ飛び込んだ
ああ、ふたりで川へと車を走らせたのさ

ジョンストン・カンパニーに建築の仕事を見つけた
だが最近では不況のせいか仕事はあまりない
とても大切だと思っていたことが
ああ、霧散していくようだ
俺は何も覚えてないように振舞っているし
マリーは気にしない素振りだ

だが俺は兄貴の車でドライブした時のふたりのことは忘れない
貯水池での日焼けして、水に塗れた彼女の体
夜になると堤防のところに目を開けたまま横たわり
吐息が聞こえるようにと彼女を抱き寄せた
そんな思い出が今、俺を苦しめる
叶わなければ、夢は嘘なのか
それよりひどいことなのか
そんな思いを抱えながら俺は今夜川へと向かう
川が干上がっていることを知りながら
そんな思いが川へと向かわせるのだ
あの娘と俺は
川へと車を走らせるのさ

Bruce Springsteen『The River』
Columbia

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